掃き溜め。

強い感情が募ってどうしようもなくなったとき、ここに吐き出すことにした。ふう。

はじまりのどあー

それなりに大きい箱の中にいた。6~8畳間くらいで、壁はギリシャを思わせる…いやモロッコか?それともメルボルンそのものなのか??一体何なんだこの壁の色は。

 

あ、自己紹介が遅れました。私はばんどういるかフロムジャパェアーン。趣味はサーフィンで夜はクラブで踊り明かすわよ~~~。うん。このプロフィールでいけば、このパリピな日焼けしてるカンガルーに負けじとマッチョでリンゴとステーキを交互にかじってる人が人気者なこの場所でも、きっと友達が500人できる。

ヨシッ、と何度も脳内でシミュレーションをしながら始まった私のメルボルンでの生活。しかしいきなり私は危機に瀕していた。そう、私はこのモロッコ風ぽい部屋に閉じ込められてしまったのだ。正確には、心理的に外に出られない状況に陥ってしまった。

 

私は裸のマットレスに寝転がり、むき出しの蛍光灯に照らされていた。(私は服を着ていました。)

スマホで時刻を確認すると、13時過ぎであった。ということは3時間ほど眠っていたということになる。今朝メルボルンに上陸した私は、直感の力で現地SIMカードを入手し滞在先学生アパートの管理団体に到着の連絡をした。それからこの新居へ命からがら多少遅刻しながら辿り着き、管理人の案内を受けたのち、自分の部屋の扉を閉め、スーツケースも開かないままに眠りに落ちてしまったのであった。さて、起きて荷物を整理して、山積みになった数々の重要な事務業務を消化するために時間と体力を投入しなくては。しかしその前にシャワーが浴びたい。

 

私がいつも乗ってる自家用ジェット💓と違い、一般人用の旅客機にはシャワーが付いていない。24時間弱ものフライトに耐えた私は全身が脂で漲っていた。何か行動するにしてもこんなギトギト状態では「不快」がついてまわる。もしかすると不健康でもある。毛穴が息苦しそうにもがいているのが感じる。さらに重大なことに、もし万が一、運命のいたずら、というか必然の結果としてフラットメイトなどというものを遭遇してしまった場合、不潔おばけ状態では到底友達なぞにはなれずに塩を投げつけられそうですらある。どの文化圏の方かは存じ上げないが、きっと地中海とかから来た人ならオリーブオイルをこれでもかと振りかけてくるし、インドの方ならターメリックで目潰しを食らわせてきそうである。日本人だったら問答無用で斬り捨てるであろう。それは嫌だ。よし、シャワーを浴びよう。

 

ベッドから身を起こしたとき、外から音が聞こえた。それは完全なる人の声で、その声は完全に英語言語を話していた。”Heyyyyyyyyyyy!!!!”"Yoooooo!""&%dasiu%$1HJK$u367&!!!!"

私の自室は、共有のリビング、キッチンがあるのと同じ階に位置していて、外の音が漏れ聞こえてくるようである。

 

おおこれは、と私は思った。友達を作るチャンスではないか!そうだ今こそこの部屋を飛び出して、その脂身すらも強さにして飛躍するときだ!そのためにお菓子も持って来たし自己紹介とか掴みの文句も考えたんだし!さあbefriend with that guyyyys!!!!! Yeah!

 

すなわち、人は自分が思うほど自分のことを制御することなんてできなくて、もし自分が理性的判断ではそうしたほうがいいと思っていたとしても、実際に自分がそのある特定の状況において、気持ちの問題として”そうする気”にならなければ行動は起こらないのである。つまり私はこの状況においてドアを開けることを躊躇していた。

 

躊躇どころの話ではない。完全に消極的だった。100,000°くらい後ろ向きに検討していた。私を支配したのは緊張、焦り、そして恐怖感情であった。怖い。

 

それに、この場所にいさえすれば安全であるという気にもなっていた。すなわちこの部屋は安全地帯で、私はそれに甘えて依存状態に陥っていた。まさか数時間前に出会ったばかりの部屋に依存する気持ちが芽生えるとは。これがさらに”部屋から出る”という行為を困難にしていた。

 

ただ、実用的、合理的側面として、別に今ドアを開ける必要はないというのもあった。さらに、たとえ外で話しているお友達(候補)たちと顔を合わせたところで、向こうも突然の訪問者に戸惑うはずである。(そんで塩投げられる。)

 

悶々と考えているうちに、今度は音楽が聞こえた。多くの人々が訪れ、英語で何やら話し、そして去って行った。

 

友の声を思い出していた。そう、私は大学でたくさんの大切な友達ができたということに、出国する前に気が付いた。「えーいるかちゃんいっちゃうの!?さみしい~~~~」

「いるかちゃんだったら絶対たくさん友達できるよ!」

メルボルンいいな~。帰ったらたくさんお話聞かせてね!」

「白人のイケメン彼氏作ってきてよ!笑」

「写真フェイスブックにあげてね!待ってる!」

「応援してるよ!」

「頑張ってね!」

 

 

 

「頑張ってね!」

 

 

 

 

気が付いたら2度寝していたようである。時刻は16:30。自分が情けない気持ちは目を開けた後も消えなくて、全身に纏わりつく不快さは増していた。風呂に入りたすぎる。一方外からは口笛と、なにやら料理をしているらしい雑音が聞こえていた。一人でノコノコやってきた敵が、どうやら外にいるらしい。

 

勇気を出すのにはちょっとしたコツがいる。まずはその行為がもたらす悪い結末と良い結末を充分に検討する。そして最悪の結末に自ら、またはほかの関係者が耐えうるうえに、そのリスクを上回る利益を見出したら実行という決断を下す。あとはその決断を信じて、力を抜いて、すべての恐怖を忘れ、その行為を遂行することに全神経を注ぐのである。

 

ここにおいて私の理性は、ゴーのジャッジメントを下した。

 

 

私はドアの前に立ち、深呼吸をして、小馬鹿にしたように首を傾げた。

 

 

「頑張ってね」

 

 

笑顔の友達(になれそう!)が目に映った。

 

 

ハーイ!

 

 

扉は開き、目が離せないような目まぐるしく色彩豊かな日々が、きっとこれからはじまる。